2007年 小林章欧文タイプ・セミナー「実践アルファベット!」質疑応答(1)


Q.フォントを作る際に、文章にしてみて試してみるとのお話でした。InDesignで文字を組む場合、ワードスペースやキャラクタースペースをカスタマイズできますが、”このようなスペースで組んでもらいたい”というものはそのFontを作ったタイプデザイナーとしてあるのでしょうか。またそれはフォントによって異なりますか。(?歳、会社員)

A.まずフォントの設計のさいに、デフォルトの字間を設定するわけですが、おすすめの字間があるとすれば、そのデフォルトの字間です。書体デザイナーは、アウトラインの調整とほぼ同じ時間をかけて文字のスペーシングをします。ただし例外があります。これは拙著『欧文書体』にも書きましたが、大文字と小文字とで成り立っている書体(Times Roman など)の場合、見出しなどを大文字だけで組むと、字間が狭くて読みづらいので、トラッキングなどでやや空けたほうが良いと思います。じゃあなんで最初から広めに大文字のアキをとっておかないのか、というツッコミがありそうですが、そういう書体は、本文組で大文字の次に小文字が来ることを優先してつくるから広くしないんです。サンセリフ体では、大文字だけでも見出しで塊として見せるためにややつめて使うことが多いのでそれは必ずしも当てはまりませんが、ローマン体の時は大文字どうしは空けることをお勧めします。あと、この後で書きますが、字間や文字の太さをを絶対にいじっちゃいけないというわけではないです。


Q. 仕事ではページや行に収めるために長体やカーンをかけて使うことが多いのですが、設計者として許容できる変形の限度というものがあれば伺いたく思います。(70%も長体をかけてはダメ、とか。長体をかけたらカーンも調整しなければバランスが崩れるとか)。また、フォント設計を支援するソフトウェアがいろいろあります。今日は手で一つ一つ作る方法が主でしたが基本となる要素にパラメータを与えて自動的にフォントを生成するものもあると聞きます。そういう自動生成で実用的なフォントを作ることは現実的なんでしょうか。(35歳、編集者)

A. 書体デザイナーの顔色をうかがうよりも、読者が読みやすいかどうかを第一に考えましょう。あとは、書体を使うデザイナーであるあなたの美意識としてどこまで許せるか、じゃないでしょうか。極端な話ですが、「70%も長体をかけ」ると、縦線が横線よりも細くなっちゃいますよね。そういうのは、元のフォントとまったく違って見えるでしょうね。それは良いのかどうか、こちらは素材をつくる人で、探し出してまで文句は言えない。高岡昌生さんがよく例えに出しますが、私(書体デザイナー)は一生懸命良いお米を作るお百姓さんです。それを使って料理をするのが板前さん(デザイナー)です。すし飯をつくるのにどのくらいの硬さでご飯を炊くか、というようなことです。ベトベトのすし飯を炊いたら、お客さんは離れていくかもしれない。ご飯の炊き加減の見極めと、それでお店が繁盛するかどうかは板前さんにかかっています。ただし、お米は必ずすし飯になるわけじゃない。お年寄りや赤ちゃんのいる家でおかゆにしたり柔らかめに炊いたりすることがあるから、お米の生産者が「これがお勧めの硬さ」みたいなこと言ってるからといってそれにこだわりすぎるのも良くないでしょうね。
 「自動的にフォントを生成する」ソフトウェアとかは、まだ見たことがありませんが、「自動的に交響曲を生成する」とか「自動的に小説を生成する」のようなもんじゃないか...そう想像すると、どうなんでしょうか?


Q. 使いたい(気に入った)書体に太いものがない時は線を付けて太らせたり細いものがない時は線で細めたりするのは望ましくないのかどうか、教えていただきたい。(32歳、会社員)
Q. 和文、欧文に限らず、イラストレータ上で線(フチ)を付けて、若干太らせて味を出すような事をするのですが(ボテッとさせる)それはやるべきではないのでしょうか。例えば、Regularだと細くて、Mediumだと太いなと感じる時など、単純に太らせてよいものなのかどうか。(34歳、グラフィックデザイナー)

A. これも程度とあなたの美意識との問題です。いずれにしても、書体デザイナーから抗議の電話がかかるということは無いと思います(笑)。安心していろいろ試してください。やっているうちに、これはやりすぎだという自分なりの基準ができてくると思うんです。それが他の人にとって読みにくくなければ良いんですよ。


Q. 実演の中で、セリフがある理由をおっしゃっていたのですが、席が遠くてよく見えませんでした。教えていただけますか?(40歳、インハウスグラフィックデザイナー)

A. まず、実演は古代ローマの碑文をお手本として書きました。昔も今も、碑文に文字を彫るときに下書きが要ります。古代ローマでは、平筆か刷毛のようなものを使ったと言われます。その平筆で書くとき、一本の縦線は鉛筆で書く縦棒のようには書きにくいんです。書き出しの時にべたっと始まると筆の穂先が割れて上手く書けません。やってみると分かります。ペンキで書かれた看板の手書きのサンセリフ体にも、小さいセリフのようなものがついていることはよくあって、イギリスやフランスで写真を撮ったこともありますよ。もちろん書いたのはペンキ職人で、文字の形が面白いとか新しいとかそういうことじゃない、普通の看板や注意書きです。左斜め上から入った方が穂先がまとまって書きやすいので左側にセリフらしいものができる。そうやって縦画を引いたらその反対側にバランスを取るためカウンターウェイトの役割をする爪状のものを付け足します。それで左右両方の爪状のものが揃います。ローマの碑文の場合は美しさを強調する目的があったと思いますから、その形を石に彫ったときにきれいに見えるように整えて、それがセリフの原型になったんじゃないでしょうか。


Q. 素朴な疑問で、どうしてローマ人は平筆を使ったのでしょうか。彫る時にセリフはいるのかなあ、、、(21歳、女子美術大学)

A. 「彫る時にセリフはいるのかなあ」は良い質問ですね! なぜ平筆を使ったのか、本当に平筆だったのか、全部が全部平筆での下書きだったのかなど、私は考古学者じゃないので詳しくは分かりませんが、出来上がった文字の形から、多くは平筆で書かれた字形が元になっていると推察される、というところに落ち着いているようです。ローマ人よりもっと前、古代ギリシャの碑文ではセリフのついていないものもたくさんあったようです。ただ、その時代のものはどれも線が細くて、私が見た限りでは、ローマ碑文のように堂々として均整の取れたものは多くなかったように思います。実演では古代ローマの碑文をお手本としましたが、それが現代のアルファベットのデザインの基礎だからです。現代では、碑文を彫る時に鉛筆などで下描きをしてから彫るやりかたの方がが多いそうですが、そういう人たちの文字でセリフのないものも、始筆部と終筆部を太らせて腰をやや細くするのが多く、Helvetica みたいに直線で構成されたものはほとんどありません。真ん中を細くすると、字が落ち着いて見えるからだと思います。


Q. 情況や場に応じてフォントを使い分けするが、いつの時代でも情況や場に応じて使い分けるフォントは同じなのか?つまり、時代によって使われ方が変化したようなフォントがあるか教えてください。また、もしあるようでしたら、どのフォントがどのような使われ方に変化していったのか教えてください。(21歳、慶応義塾大学)

A. 解りやすい例は、ドイツで使われていたブラックレター(ドイツ文字、例えば Wilhelm Klingspor Gotisch みたいな書体、グーテンベルクの聖書の書体など)でしょう。第二次大戦まではドイツで一般的な書籍はブラックレターで組まれていました。博物館で見る鉄道やバスなどの停留所の注意書きとか、切符とかをみてもブラックレターが多かったようです。現代のドイツ人の若者には読みにくい文字ですが、ほんの数十年前までは普通にそれでみんな本を読んで、生活をしていたわけです。
 現在はブラックレターはそんなに使われません。それで小説などの本を組む人はほとんどいないでしょう。それはローマン体と比べると読みにくいからです。でも、ブラックレターは伝統的な感じの欲しいところには今でも使われます。古城の案内パンフレットやビアホール、レストランのロゴやメニューの見出し部分などにブラックレターが使われていると、歴史のある場所なんだなという雰囲気になります。あと、ヘビーメタルロックの人たちもブラックレターを好んで使いますが、そういう「ビジュアル的に」みたいな使われ方は50年前までは考えられなかったと思います。


Q. 植原さんの時の質問の続きなんですが、固有名詞が小文字のものの場合、小林さんは別にそれにとらわれず、最初の文字を大文字であとは小文字にすると、おっしゃっていましたが、固有名詞にイタリックを使うというのはアリなんでしょうか?また、サンセルフで組む時は、ローマン+イタリックの組み合わせみたいな、決まり事はあるのでしょうか?(29歳、グラフィックデザイナー)

A. 私は書体デザイナーで、組版のことは知っている範囲でできるだけお答えします。固有名詞が大文字で始まるというのはちょっと前までは普通でしたが、いまは「iPod」とかありますからね。ドイツ語では名詞はすべて大文字で始めるのが常識なので、それをかたくなに守って表記している人もいます(http://www.pod-tricks.de/)。これ、「違うだろ」って一言で片づけられない。理屈としてはこっちが正しいのかもしれない。ドイツでなくても、出版社によってそういうルールを規定しているところはあると思います。固有名詞がラテン語(学名)とかの場合は当然その出版社のルールに従ってイタリックで組むこともあると思います。


Q. 小文字ロゴを本文組で「キャップ&〜〜」とするのはブランドイメージ拡散にんる気がするのですが、いかがでしょうか?例えばロゴでなくても「SHISEIDO」と書くのと「Shiseido」と書くのではかなりイメージが変化するので。(30歳、グラフィックデザイナー)

A, 本文中でもなんでもかんでもロゴのブランドイメージに近づけようとするのは、どこかに限界が出てくるはずです。また自分のブランドを自分の出版社でするならばコントロールできるでしょうが、出版社によって独自のルールを持っているところもありますし、統一しようとは思わない方が良いと思います。ビジュアル主体なのか、本当に読んでもらおうと思っているのか、あたりが分かれ目なのでは。日本の立派な出版物で、英語の
本文中に出てくる人物の名前がそこだけ全部大文字で組まれていて、読みにくいなあと思ったものがあります。


Q. 日本に来て、日本で見る欧文を扱ったデザインなどで、一番良く見られる不自然な点は何でしょうか。(意図的でないスペーシングのばらつき、デザイン上のまとまり、など。)(22歳、多摩美術大学)
Q. 日本人としての自分としては、欧文書体はむずかしく、欧米では、おかしく思われるのではないか?など海外で見る日本語表記がおかしいように、日本人のための日本国内だけのものであるならば、まだ安心ですが、まだまだ不安です。(?歳、?)
Q. マヌケ引用府に代表される「"」。日本人がやってしまいがちな欧文の間違った使用方法の具体例を教えて下さい。(33歳、株式会社デンソー)

A, とくに文章組で分かります。マヌケ引用符(オコシもウケもない真っ直ぐのやつ)とか、単語間が必要以上に空いているとかはやっぱり他の国より日本で多く見られますね。あとピリオドのあとだけ大きくスペースを取るとかも日本にありがちな、現代にふさわしくない組み方です。ハイフネーション(単語の途中での分割・改行)をしないで長い単語を次の行に送って、そのために行ごとに濃度が極端に違う、なども悪い組版です。悪い組版をしないためには、数ページでもいいから英語の本を読みましょう。できれば、自分が興味のある内容がいい。その文章を辞書を引きながらでも良いから読んでみる。そうすると読者の気持ちになる。そういうふうに読み比べると、読みやすい組版かどうかが判断できるようになると思います。私は英語はネイティブでも何でもなくて、20代後半から勉強を始めたので今でもヘタですが、目だけはそうやって英語の組版に慣らしました。


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