2007年 小林章欧文タイプ・セミナー「実践アルファベット!」質疑応答(3)


Q. 日本の書道も素晴らしい文字や空間の使い方をしていますが、参考になりますか。筆を使った文字の決まりごと"書"でも同じことだと思います。(28歳、アートディレクター)

A. まったくそのとおりです。私は実家の新潟に帰ると、なるべく時間を作って會津八一(あいづ・やいち)記念館に行って彼の書をじっくり観ます。小学生程度の生半可な書道の知識しか持たない私が何か言うのはおこがましいのですが、彼の空間に対する感覚は書体デザイナーの目から見て見事だと思います。彼は、自分が揮毫した文の字間・行間を変えて石に彫られたり印刷されたりされるのを非常に嫌がったそうです。字間・行間をそのままにしてくれという言葉をわざわざゴム印にして揮毫した書にペタペタ押してあるのも見たことがあります。會津八一の『續・渾齋随筆』(中公文庫)のなかにも、揮毫した文字の間を勝手に空けられて八一が自分で修整する話が出てきます。


Q. スクリプト系の既存のフォントで、つながりが気になるものは修正してもいいのでしょうか?ロゴや見出しなどで使う時、ここがスムーズだと、書き順通りかな、と思うのですがどのくらいくずしても読めるのか、のラインが見極めが難しいです。海外に行くと、手書きアルファベットの字が読めなかったりします。ネイティブだと読めても外国の人だと読めない崩し方があるのかな、、と思って最近悩んでいます。(25歳、webデザイナー)

A. どの部分の「つながり」かわかりませんが、書き順というのはやっぱり気にした方がいいですね。国によって書き文字の崩し方が違う、そのため郵便が届かなかった、という面白い例を2007年の ATypI(国際タイポグラフィ協会)の講演で聴きました。面白かった。


Q. 本日はイタリックとオブリークについて質問させて頂きました。丁寧なご回答で本当にありがとうございました。現在は白金の小泉さんのタイプショップ-gでタイポグラフィーを学んでおります。ヘルベチカのフォルムが日本に届いた折に一度いらっしゃったようですが、また是非いらして、タイプフェイスのお話聞かせてください。(26歳、グラフィックデザイナー)

A. イタリックとオブリークについて、やっぱり大事なので、新しく執筆中の書籍に載せることになるかもしれません。良い質問ありがとうございました!


Q. 現在、カリグラフィーを習っておりますが、仕事で欧文の文字を組むのとは違う事多く、たまに悩むことがあります。(スペーシングなど)カリグラフィーで文字を書くという事と、デジタルフォントで文字を組む、という事の一番大きな違いは何だと思われますか?(37歳、会社員)

A. 一番大きな違いは、フォントは、出来合いの文字を並べるのが前提だということ。アクシデント的なバリエーションはできません。いっぽうカリグラフィーでは一文字一文字どうしても違ってしまうし、それを無理に揃える必要がない。揃えないところに人情味や情感が出たりするんじゃないでしょうか。でも共通なのは、白い部分を上手く活かして組む(書く)ことです。


Q. 自分で作ったものをみていただきたいと思いました。(23歳、グラフィックデザイナー)

A. 次回のセミナーで舞台に上がる? あるいは、質疑応答やそのための時間をもっと取るようにするとかして、そういう場を増やしましょうか。セミナーの感想で、私の講演の内容が本と同じとか、去年と同じで残念とかいうご意見もあったので、TDC の照沼さん、この次はどうしましょうか。こちらとしては、十代の学生さんもいらっしゃるし、私の本を読んだことのない初心者にも分かりやすいように、とか、大事なことを繰り返して覚えていただきたいので初歩的な話も常に入れるわけですが、ベテランデザイナーの方には簡単すぎて面白くないかもしれないかもしれないですね、皆さんに退屈されないような何か考えます。


Q. 海外ではアンダーラインとか強調させる手法があるんでしょうか?(イタリック以外で)(22歳、グラフィックデザイナー)

A. 確かにいろんな強調の方法があって、アンダーラインとかも一つの手ではありますが、小文字の g とかが串刺しみたいになって見苦しいと思います。ボールド体も雑誌の記事やパンフレットくらいならば良いですけれど、小説みたいに長く読む文章ならばやっぱりイタリックが普通です。


Q. 長体から手体へ変化した場合、文字間などバランスのとり方。(31歳、会社員)

A. 長体の程度にもよりますし、ひとことで文章で表すのはほとんど無理なので、書体によるとしか書けません。すみません。


Q. 「S」のコツを教えてください。(書体として)(28歳、デザイナー)

A. 私の個人的な好みで言えば、上半分と下半分がだいたい同じ大きさに見えていて、少しだけ右に傾いているときれいに見えると思います。Optima とか、Trajan とかの S の感じです。


Q. アルファベットも和文同様、右手で書いたときに自然に現れる形をしていますが、アルファベット圏でも右利きの人の方が多いのでしょうか?(26歳、会社員)

A. 圧倒的に右利きの人が多いと思います。左利きの人も、右利きと同じような形にするために紙を九十度傾けたりしているようです。


Q. 漢字文を見慣れている生活の中、隙間にゆとりのある欧文を組む時、スカスカした気がしてツメ気味にしてしまうことが多いです。ロゴ組みなどの文字間は欧米は神経質なんでしょうか?またその場合、ツメとアキどちらが嫌がられますか?(?歳、株式会社デンソー)

A. アメリカに行くと気が付くんですが、アメリカはやたらとつめますね。新聞『USA Today』を見てみてください。オランダのデザイナーがつくった Gulliver という良いフォントを選んでいるんですが、書体本来のスペーシングを無視して見出しも本文もギチギチにして使ってあります。本当はもっときれいに見えるはずだと知っているので、私には読みづらく感じます。同じデザイナーの Capitorium 書体を使ったオランダの新聞『deVolkskrant』は、書体本来のスペーシングを活かしてゆったり組んであって読みやすい気がします。オランダ語は読めないけど分かるんです。そのオランダの書体デザイナーがこないだライノタイプに来たときに、その両方の新聞を持っていたので見せてそういう話で盛り上がりました。少し小さくてもゆったり組んだ方が、大きくてギチギチよりも読みやすいと個人的には思うんですが。くどいかもしれませんが、本来のスペーシングをいじったから良くない、と言ってるのでなく、その見え方の程度の問題ですよ。


Q. スペーシングがよくわからない。書体はスペーシングも考えて作られているというお話もありましたが、欧文である書体をうってできたものを、そのまま使っていいのか、場合によっては自分でつめた方がいいのか、迷う事があります。基本的な事ですが、、(33歳、デザイナー)

A. カーニング(フォントに組み込まれて、特定の二文字間の間を調節する設定)も、だいたいどんな組み合わせでも大丈夫なようにつくるんですが、すべての単語が100%それでうまくいくわけでないので、この文字間は自分で変えよう、と思うことがあるかもしれません。書体デザイナーはそれに対して怒ったりしませんのでご安心を。ただ、他の人が見て読みやすいかどうかですね。もちろん「慣れ」という要素は大きいと思います。『USA Today』を昔から読んでいる人にはあれは読みやすいんですよ。たぶん。


Q. 授業で「daily」という文字をロゴデザインしましたが「d」「a」の右下の部分や「i」の上の「・」をとったロゴをつくりました。特に「i」の上の「・」をとったりした文字は通用するのでしょうか?(20歳、女子美術大学)

A. 実際のものを見ないと何とも言えませんが、全体として違和感なく読めるならば良いのでは。えー、ちょっと知ったかぶりをして細かいことを言わせてもらうと、トルコ語では「i」(発音:イ)の上の「・」がないのは別の文字(発音:ウ)になるので、念のためトルコ人の同僚にきいてみました。というか私も前から聞いてみたかったことの一つです。ここからは彼の意見です。
――たとえば、「LINOTYPE」みたいに全部大文字で表記した場合、大文字 I の上に点が無くとも、単語を見て、これは英語としての読み方をしなくちゃいけないと分かるから「ルノタイプ」とは読まない。その「アイに点が無い」ロゴがトルコ語の単語なら別だけど、英語だったら問題ないんじゃないか――これでいいでしょうか。ヨーロッパに住んでいると、すぐ近くにそういう人がいるので助かります。


Q. フリーフォントについてどう思われますか?ダウンロードが誰でもできますが、フォントに対しての意識が弱くなっていってしまう気がします。それと、一番好きなフォントはなんでしょうか?やはり制作に携わったものでしょうか。(22歳、女子美術大学)

A. いや、いろいろあったほうがいいですよ。いろいろ使って比べてみると分かると思います。ある程度の値段を払って買うフォントはそれなりに手間がかかっていることに気づく、逆に、ある程度の値段を払って買うフォントだからキチンとお金を取れるデザイン(文章組)に仕上る、という場合が将来きっとあると思うんですよ。あってほしいなあ。お金を払えば品質は100%大丈夫という保証はありませんが、ライノタイプみたいな大手フォントメーカーは、フォントにデザイン上やデータ上のミスがあれば返金に応じます。
 好きなフォントは何千もあるのですが、どうしても一つといわれたら私のつくったセリフ書体 Clifford ということにしています。制作に4年費やしてコンテストで一位になって、私がいろんな人に知ってもらうきっかけになった書体ですから。


Q. うまくまとめる事が出来ませんが、手書き文字からベジェにおこしていくコツなどがあったら教えていただきたかったです。Pointed Brushでアルファベットを書いていますが、ブラッシュスクリプト体には疑問を感じています。バランスが悪いと思います。フォントデザイナーではないので、書体をおこすつもりはありませんが、自分の文字をPCでとりあげてみたいです。(?歳、カリグラファー)

A. コツは、実際にものを見てからでないと、なかなか言えないですね。心構えのようなものとも違うし。強いて言えば、黒で文字を書いているときに常に白の部分の形を見ることです。カリグラフィだって同じですよね。


Q. 文字から受ける印象は文字のどの部分から生み出されるのですか?(24歳、Webプランナー)

A. 漠然としているので、文章のことだったらこうお答えします。欧文ならば、ひとつひとつの文字の形ではなくて、単語としての形でしょうね。Typography という単語だったら、T,h は上に飛び出る部分があり、y,p,g は下に伸びる。文章を読むときは単語の形で認識していくので、一文字一文字を読んでいくんじゃないんです。


Q. ドクメンタの45のサイン計画の感想は?(27歳、デザイナー)

A. 「ドクメンタの45のサイン計画」というのをウェブで探しましたが、よくわかりませんでした。すみません。


Q. 最後の照沼さんからの質問について。質問の主旨は「既存のフォントを変形してロゴを作成するフォローの是非」と解釈しました。この質問への回答がやや曖昧だったと思います。できれば、もう少し詳しい回答を伺いたいと思います。ちなみに、ライノタイプ日本代理店に問い合わせのメールをしたことがあります。回答は「ロゴとしての使用は可。長体、手体の変形も可。ただし極端な変形は追加料金と申請が必要らしい」との回答でした。変形については、タイプデザイナーの意志の尊重という観点もあります。(同一性の保持)(今回の「TAMAKI」の作例は実は申請が必要な作業ではないかとも言えます。)(42歳、デザイナー)
Q. レクチャーのサンプルにあったようなすでにある書体を改変してのロゴの作成の是非。著作権(同一精保持権)の侵害ではないのか?(33歳、グラフィックデザイナー)

A. ひとことでいうと、オリジナルのデータをインストールしたあとで、Adobe Illustrator などで文字の形を変形させて印字、また字形のアウトラインを変えて使うのは問題ないんです。ライノタイプの日本総代理店であるエス・ディー・ジーからも、次のような回答がありました。
「グラフィック用ソフトウェア(Adobe Illustrator など)上でアウトラインをとり、ロゴ用に太くしたり、拡大・縮小、偏倍をかけたりの修整を行う場合には、問題ありません。偏倍とは長体(縦長)・平体(横長)、斜体のことです。但し、エンドユーザー様がライノタイプフォントを使用してロゴを作成する際に、フォントソフトウェアそれ自体に編集や修整などを加える場合には、別途追加ライセンス契約をしていただき、追加料金をお支払いして頂くことになります。そのフォント自体を独自に修整、改変、変更したり、他のプログラムにもその修整されたフォントを使用したりする場合には、ライノタイプ社へどのように変更したのか、太さなどや変更したパーセンテージなどを申し出なくてはなりません」
 分かりやすく言うと、「インストールして使うためのフォントデータ」をいじってからインストールするのか、それともフォントデータはオリジナルのままで、印字したあとで手を入れるのか、の違いです。後者は問題ない。そうでなければ「フォントを使うな」みたいなことになっちゃいます。ユーザーの保護という見方からも言えるわけで、かりにフォントデータを勝手にいじったあとでインストールしたらデータが壊れて印字できなくなった、さあどうしようということになってもメーカーは責任持てませんよ、ということです。そのかわりオリジナルのフォントデータそのものに問題があれば無償で修理、交換いたしますし、どうしてもフォントデータに改変が必要ならばそういう方法もちゃんとあります。特注フォントというかたちでお受けして、ライノタイプが責任を持って、きちんとインストールできるかどうか、いろんなソフトウェアで問題なくフォントが機能するかのチェックをしてからお届けするわけです。
 この件についてご質問がありましたら、エス・ディー・ジー(TEL. 03-3984-3200 linotype@sdg-net.co.jp)にお問い合わせください。


Q. ひとつの書体のデザインを完結されるのにどれくらいの時間を費やすのでしょうか。(ファミリー含む)→サンセリフやセリフ等、種類によってかかる時間は変わるのでしょうか?一度に複数書体のデザイン開発に携わるのでしょうか。(36歳、グラフィックデザイナー)

A. 昨年10月に、スクリプト体フォント Hamada を約3年がかりで完成させました。12月に、あるサンセリフ体の改刻版ですが、15書体からなるファミリーを完成させたところです。優秀なアシスタントのおかげで約8ヶ月でできました。現在、その書体のカタログの制作中で、きょうはその書体の特長などをライターに伝える文章とか資料とか用意してました。ただ「良いよ」じゃライターさんに伝わらないので、プロモーション用の資料づくりも大事です。それと現在制作中の書体ファミリー(20書体、セリフ書体)があって、それの他に、企画書をまとめて今年前半に取りかかろうとする自社開発書体が4ファミリーあります。本当にできるの?ってちょっと不安ですが、やります! 常に複数書体のデザインに携わるのは面白いし、またそうすることで間違いを見つけやすくできます。「他人の目になることが大事」とセミナーで言ったと思いますが、スクリプト体をやっているときはサンセリフ体のことは忘れている、だからサンセリフ体にもどったときに新鮮な目で見られる、間違いに気づく、というふうです。一つの書体に没頭していたら麻痺して気づかないこともあるので。


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